「個人所得税:住所の無い個人とは」

注:本稿は2018年8月のみずほフィナンシャルグループ MIZUHO CHINA WEEKLY NEWSに掲載されました記事を2019年5月に一部加筆修正したものです。

【はじめに】

実務の世界では個人所得税の申告システムが更新され、いくつかの点について変更が行われました。
本号では、この更新のうち「外国人住所」の問題について理論的な解説を行います。実務上、税務申告システムの変更は頻繁に行われますが、法規改正等をフォローされる中国の会計税務にお詳しいお客様でも、システムの変更までは把握していないことはやむを得ません。しかし、税務リスクに関わるレベルで税務申告システムの変更が行われることは実務上度々ありますので、税務実務になじんだ専門家に定期的に申告内容を見てもらうのが良いといえるでしょう。

 

【外国人の住所】

(日本語版)
今月の金税三期個人所得税申告システムでは重要な変更(アップグレード)が行われ、申告対象者の個人情報を提出する必要があります。この中で、外国人については「住所の有無」を申告する必要があります。
これについて、原則として通常の外国人駐在員(中国の身分証保有者を除く)は中国国内で「住所のない者」であると考えます。

 

「住所」とはどのように定義されていますでしょうか?
個人所得税法実施条例第2条によると以下のように定義されています。
第二条 個人所得税法の言う中国国内に住所を有する個人とは、戸籍、家庭、経済利益関係により中国国内に習慣的に居住する個人を指す。

国税発[1994]89号「個人所得税の徴収に関する若干の問題」により、「習慣的に居住」の定義が解釈されています。
一、「習慣的に居住」の問題をいかに考えるか
個人所得税法実施条例第二条の法規により中国国内に住所を有する個人とは、戸籍、家庭、経済利益関係により中国国内に習慣的に居住する個人を指す。習慣的に居住とは、納税義務者が居住者かまたは非居住者かの一つの法律解釈上の考え方であり、実際に居住地またはある特定の時期の居住地を問題とするものではない。学習、勤務、家族親戚への訪問、旅行等の場合に中国国外に居住する場合、それらの要因がなくなった後中国国内に居住する個人は、中国をその個人が習慣的に居住する場所であると考える。

但し、この「考え方」は絶対のものではありません。国際的にみても居住者の定義は均一ではありません。
なお、習慣的居住の問題は「『中華人民共和国政府とシンガポール共和国政府の所得に対する二重課税の回避及び脱税の防止に関する協定』及び議定書条文解釈の印刷発布通知」(2010年国税発75号)にもより詳細な解釈が示されています。

 

(中文版)
这个月的金税三期个税扣缴系统出现了重大升级,需要重新报送人员身份信息。
如果有要申报的外国人,信息中有一个内容是关于有无住所的选项。
对于这一点,我们解释如下:
原则上来说,通常所有的外国人派遣员工(除了持有中国身份证的),都被认为属于在中国境内“没有住所”。

那么关于“住所”,究竟是如何定义的呢?
参考①:个人所得税法实施条例
第二条 税法所说的在中国境内有住所的个人,是指因户籍、家庭、经济利益关系而在中国境内习惯性居住的个人。

参考②:国税发[1994]89号
一、关于如何掌握“习惯性居住”的问题
条例第二条法规,在中国境内有住所的个人,是指因户籍、家庭、经济利益关系而在中国境内习惯性居住的个人。所谓习惯性居住,是判定纳税义务人是居民或非居民的一个法律意义上的标准,不是指实际居住或在某一个特定时期内的居住地。如因学习、工作、探亲、旅游等而在中国境外居住的,在其原因消除之后、必须回到中国境内居住的个人,则中国即为该纳税人习惯性居住地。

需要注意的是,以上观点也并非绝对。
国际上对于该论点也持不统一观点,其他国家会根据各自的税法等进行定义。
另外,关于“习惯性居住”的问题,在国税发[2010]75号《中华人民共和国政府和新加坡共和国政府关于对所得避免双重征税和防止偷漏税的协定》及议定书条文解释的发布通知中,也有比较详细的解释。

「駐在員の家賃の処理」

注:本稿は2018年3月のみずほフィナンシャルグループ MIZUHO CHINA WEEKLY NEWSに掲載されました記事を2019年5月に一部加筆修正したものです。

 

【はじめに】

駐在員の家賃を会社が負担する事例は良くみられますが、関連する経理処理や税務処理についてはご質問を頂く定番と言えるところです。特に、お客様が就業ビザ更新に絡んで税前給与金額を増やしたいと思われたり、はたまたお客様が外国人の手当免税優遇政策の適用を目的とした節税を考えられたりと、色々な方向に向かうことが多い分野です。
家賃の件に限りませんが、駐在員の個人所得税に関する分野は会社さん毎に少しずつ異なった傾向を持つ、なかなか一般化してお話ししにくい分野であり、同時に税額への影響が大きいため税務リスクの高い分野であると言えるでしょう。また一度誤った処理を始めると毎月同様の処理が行われ、修正がされにくく、後で発覚するとかなりのインパクトを持つという意味でもリスクが高いと言えます。

 

【駐在員の家賃の経理処理】

会社が駐在員の家賃を支出する場合の経理処理について考えてみましょう。

 

(1)賃借料として計上

まず、駐在員の家賃を「賃借料」として計上することは企業所得税の所得の計算上誤りです。これは直ちに修正すべきです。

 

(2)福利費として計上

従業員の衛生保険、生活、住居、交通のために支出する各種手当や非貨幣性福利の場合には、従業員福利費の範囲に該当します。(「企業給与報酬及び従業員福利費の企業所得税控除の問題に関する通知(国税函[2009]3号)」第三条)

企業所得税実施条例の第40条に規定する従業員福利費は給与報酬総額の14%を超えて損金算入をすることが出来ない(「企業所得税実施条例」第40条)ため、ローカル社員人数に比して駐在員人数の多い会社では、この点を視野に入れる必要があることがあります。

損金算入限度の枠内で企業所得税の計算上損金に算入するため、この住宅費用に対しては会社宛の発票を必ず発行してもらうよう、大家に依頼する必要があります。

 

(3)給与報酬に含める

一方で福利費に計上せず、住宅費は個人負担として給与報酬に含めるという考え方があります。企業が従業員のために提供する交通、住宅、通信への恩典で、貨幣化改革を実践し、月ごとに標準に従って住宅手当や交通費手当、車手当、通信手当を支払う場合、従業員給与報酬総額に含め、福利費管理を行わないことが規定されています(「財政部 企業の従業員福利費の強化に関する財務管理の通知(財企[2009]242号)」第二条)。

貨幣化改革とは翻訳に難しい言葉ですが、実費に関わらず規定に従った固定の手当を支給するというような意味合いです。

給与報酬として支給するので、実際の住宅費用がいくらか、また企業に対して家賃発票が発行されているかどうかという点が、税務上は論点にならないということになります。

住宅費を個人負担として給与報酬に含めるということはつまり手取りの増加を意味することになります。駐在員の方の多くがグロスアップで個人所得税及び税前給与を計算しているため、この処理の場合には個人所得税増額という結果を招くことになります(外国人の手当免税優遇政策、所得控除の論点を含めず考える場合)。

一方で、駐在員の家賃が福利費の枠を使わなくなりさらに給与総額に組み入れられるため、その他の福利費支出が損金に算入できる部分が大分拡大することになります。

 

最初にも書きましたが、駐在員の個人所得税の分野は個別性が強くリスクが高く、各種の状況に応じた細かい規定が相当に整備されています。税務上のご判断は本稿等の断片的な情報に依拠せず、個人所得税関係のご相談に流れるように対応できる、経験豊富な専門家にご相談いただいたうえで行われますようお願いします。

 

 

「香港での実質的支配者登記制度導入」

注:本稿は2018年4月のみずほフィナンシャルグループ MIZUHO CHINA WEEKLY NEWSに掲載されました記事を2019年5月に内容確認したものです。

香港では会社法が改正され、2018年3月1日より「実質的支配者登録(Significant Controllers Register, SCR)制度」が導入されました。これにより、上場企業を除くすべての香港で設立登記されている企業は「実質的支配者」に関する情報を所定の場所に備え置き、また随時実質的支配者の情報の更新を行うべきコンプライアンス担当者を設置しなければなりません。実質的支配者の情報は以下の情報が含まれます。

(1)自然人の場合

名称、住所、香港身分証番号またはパスポートの発行国と番号、実質支配者になった日付(2018年3月1日以降)、支配権の性質(例:25%以上の株式を有する)

(2)会社の場合

名称、登記番号、住所、会社形式、管轄法、実質支配者になった日付、支配権の性質

 

全ての香港企業で登録備置が必要ということですので、大陸の親会社として雇用人員がおらずオフィスがないようないわゆるペーパーカンパニーであっても、この実質的支配者登録制度への対応を速やかに行う必要があります

 

本号では、本改正会社法に定める実質的支配者概念について解説します。

 

【実質的支配者の概念】

 

実質的支配者は当該会社に実質的な支配権を有する自然人または複数の自然人または会社を指します。

 

実質的支配者の判定にあたり、会社は実質的支配者を識別するための合理的な手続を踏まなければなりません。たとえば、登記されている董事や株主の成員、定款、株主間契約やその他の契約または実質的支配者を識別する何らかの通知等が考えられます。

実質的支配者は以下の5条件のうち一つ以上を充たす者とされています。

・直接または間接的にその会社の株式の25%以上を保有する者。

・直接または間接的にその会社の議決権の25%以上を有する者。

・直接または間接的にその会社の取締役会の多数を任命又は解任する権利を有する者。

・その会社に実質的な影響力又は支配権を行使する権利を有するまたは実際に行使する者。

・信託や事務所等を通じて上記の条件を有する者。

例①

自然人1、非香港企業Aは共に香港企業Bの実質的支配者(候補)です。

例②

自然人2は香港企業Cの実質的支配者(候補)です。

 

なお、実質的支配者が不明な場合でも、SCR備置制度を逃れることは出来ません。たとえば、実質的支配権を識別するための手続きを踏んだが自然人または会社を識別できなかったとして登記を行う事例が、会社登記局により想定されています。この場合、

「当社は当社の実質的支配者が存在しないことを知っています、または当社の実質的支配者が存在しないことを信じるに足る合理的な理由を有しています。」

とSCR上記載する必要があります。

 

複雑なケースや具体的な実質的支配者の判断については、貴社の会社秘書役又は各専門家に確認いただくのがよいでしょう。