日中社会保障協定発効:概略と背景の解説

注:本稿は2019年8月の樱智而望企业管理咨询(上海)有限公司顧客向けレポートに掲載されました弊社提供記事です。貼付の過程で一部の図表が壊れておりますもしくは省略しますのでご了承ください。

【はじめに】

かねてから時々ニュースや話題となっている日中社会保障協定(以下、本協定と言います)については2019年9月1日より発効となり、協定発効日の1か月前である8月1日より事務手続き(日本年金機構における適用証明書の交付申請の受付)が開始できるようになっています。
これに伴い2019年7月までに日中社会保障協定の実務手続き面が明確に整理され、早速準備を始められている会社さんがあります。ここで、本号では現状を鑑みながら実務上の論点を解説していきたいと思います。

※本稿では各地の社会保険加入の現状に基づき解説をしておりますが、社会保険加入義務がある場合にその社会保険に加入しなくてよいことを勧める趣旨は全くございませんので、念のため申し添えます。

【本文】

 

(1)日中社会保障協定の概要

本協定の概要として特に重要な点は次の2つです。

・本協定は主に両国の年金制度への強制加入に伴う年金保険料の「二重負担の解消」について規定しています。「年金加入期間の通算」についての規定は含まれておりません。

・本協定の対象は「年金制度」のみであり、日本は国民年金、厚生年金保険が対象となり、中国は職工基本養老保険が対象となります。よって、中国側の医療保険・労災保険・失業保険・出産保険と言ったその他の社会保険については対象外となります。

 

 

 

よって、当然ながら「二重負担の解消」の前提として、日中で二重に社会保険に加入していることが当然となります。

 

 

本協定の対象外となる者

・現地法人雇用の中国籍職員

・現地法人雇用の日本籍職員

 

本協定の対象となる者

・駐在員のうち、日本と中国の社会保険に共に加入している職員

 

 

本協定適用による概念図

・二重負担の解消期間は原則5年とされていますが、延長が可能とされています。

・現在駐在中の駐在員も本制度に基づく適用証明書提出後から適用可能です。

 

Source:

https://www.shanghai.cn.emb-japan.go.jp/files/000493841.pdf

日・中社会保障協定説明会 厚生労働省年金局国際年金課

日本年金機構事業企画部国際事業グループ (以下の画像も同ソース)

 

 

(2)過去の経緯

中国にいらっしゃる駐在員の方も代替わりされていることが多いため、2011年の「中華人民共和国社会保険法」の施行前後の動きをここで改めて解説いたします。

2011年以前は、外国人が中国で就労する場合中国の社会保険に加入することは任意とされていました。それが、2011年に「中華人民共和国社会保険法」が公布され社会保険体系が整備されると、外国人についても「外国人が中国国内にて就業する場合は、本法の規定を参照して社会保険に加入する。」(第97条)と規定されるようになりました。

当時北京、江蘇省の蘇州等、遅れて広東省の各都市も、外国人が社会保険に強制加入すべきことが規定されたものの、上海市と大連市ではローカル規定で公布されないまたは出たが撤回されたという事象があり、結果として多くの外国人が中国の社会保険に加入しないという経緯があった模様です。

 

 

 

関連法規:

「中国国内で就業する外国人の社会保険参加暫定弁法」(人力資源社会保障部令16号)

「人力資源及び社会保障部我が国国内で就業する外国人が参加する社会保険業務関連問題に関する通知」(人社庁発[2011]113号)

「北京市で就業する外国人が参加する社会保険の関連業務操作問題に関する通知」(京社保発[2011]55号)等

「我が市で就業する外国人が参加する社会保険業務の完成に関する通知」(蘇人保規[2012]1号)等

「広州市人力資源社会保障局広州市地方税務局和菓子で就業する外国人が参加する社会保険関連事項に関する通告」(穗人社通告[2012]16号)等

 

そのような経緯があったため加入の有無については大きな変動がそこからない模様で、上海や大連では中国ローカルの社会保険を享受したい中国籍(身分証保有)の駐在員の方が加入するケースが主だった模様です。

 

その後に大きな関連法規の制定・変更はありませんが、現状は上海市社会保険局であっても「中国現地法人と契約締結している外国人も中国の社会保険の加入対象である」と回答するのが一般的ですので、法整備面は変更がないものの運用面では変化してきていると解釈できるかもしれません。

 

(3)いくつかのケースを考察

駐在員のこの種の論点は個人の事情も絡んで千差万別ですが、上述の通り地域性もあって一概にまとめあげるのが難しい状況です。以下では、いくつかの代表的なケースに基づく一般的な結論を考察します。

 

・日本籍の駐在員の方で、日本と中国の社会保険双方に加入している場合:

現地法人へ在籍出向される日本籍の駐在員の方で出向元企業が出向者の給与を負担していない場合であっても、駐在中日本の社会保険に継続加入されていないケースはほぼないかと考えられます。それは、いずれ日本に戻られたときに日本にいた場合といない場合で退職後の年金に差が出るのはおかしいという考え方からであって、駐在中日本の年金制度に日本勤務時と同等の水準で加入しなければならない訳ではありません。

この場合、本協定のメリットを享受し二重負担を解消することになります。

 

・中国籍の駐在員の方で、日本と中国の社会保険双方に加入している場合:

会社として特に年金部分について二重負担するのは望ましくないため、本協定のメリットを享受し中国側の年金制度の加入免除を行うか、日本側の加入を取り下げるようご本人の契約形態等を変更するか、どちらかの決定を行うことができるようになると解されます。

 

・中国の社会保険に加入している駐在員と加入していない駐在員が企業グループ内に混在している場合(大陸に複数拠点を持つ会社等):

日本側から見て本協定を適用する駐在員がいたり適用しない駐在員がいたりするのはやや奇異であるため、統一して中国の社会保険に加入したうえで本協定により二重負担を解消するのが自然な解釈かと思います。

 

・現地採用の日本籍従業員:

本協定の対象外となります。

 

なお、本協定(日本と中国の社会保障協定)は最初に述べた通り2019年9月に発効するものですが、中国と他国との同様の二国間協定はドイツや韓国等各国と既に発効の実例があり、日中の社会保障協定の施行により、中国社会保険局サイドとして外国人全体の社会保険加入実務に変更があるとは思えません。

 

(参考)

加入免除に関する手続き概略

(略)

適用証明書申請書記入上の注意点

(略)

本稿の執筆時点は次の通りです:201986

 

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