増値税:仕入税額の範囲・認証・計算

注:本稿は2019年10月のみずほフィナンシャルグループの Mizuho Global InfoStation- 中国会計・税務の現場から に掲載されました弊社提供記事です。貼付の過程で図表の一部が壊れておりますことをご了承ください。

 

【はじめに】

前前号・前号では増値税率に変更があった場合の対応や、赤字発票発行の実務などについてふれてきました。

今号でも引き続き増値税実務ということで、仕入増値税の認証について基礎的な内容を説明していきたいと思います。こういったところはとかく実務的ですので、駐在員は中国人財務部部員から「中国ではこうなんです」と説明されればそれまでということになりやすい分野です。

そう言った場合実は認証漏れや認証失敗などによって会社に損害が発生していてもうまくごまかされてしまうことにもなりかねません。会計監査でもこういう部分は会計処理が適切な限り問題とされにくいため、適切な管理が出来なければ現地目線で見て脇が甘い会社と認識されやすいことになるでしょう。

本号では認証実務の基本的な内容を記載しますので、まずは皆さまのご理解を深めて頂ければと思います。

 

 

 

 

【控除対象仕入税額の範囲】

 

営業税改正増値税試点実施弁法

第二十五条

以下の仕入税額は売上税額から控除できる。

  • 売先より取得した増値税専用発票(自動車売上統一発票を含む、以下同)に明記されている増値税額。
  • 税関より取得した税関輸入増値税専用納付書(海关进口增值税专用缴款书)に明記されている増値税額。
  • 購買した農産品で、増値税専用発票や税関輸入増値税専用納付書以外の場合、農産物購入発票や販売発票に明記される購入価額と13%の控除率(※)で計算した仕入税額。

仕入税額=代金×控除率

  • 国外の企業または個人が提供する課税行為について、税務機関または源泉徴収義務者が取得する納税証明上で明記されている増値税額。

 

※農産品の控除率は「増値税改革深化に関する関連政策の公告」財政部税務総局税関総署公告2019年39号により、控除率が9%に調整されています。

 

後で示すように認証実務はIT化が発達しているため、増値税専用発票の認証はオペレーショナルエラーを余り気にしなくてよくなりつつあります。一方で上の中でも「税関輸入増値税専用納付書」や源泉徴収で発生する仕入税額の処理は、実務上問題が発生しやすい部分と言えます。

 

更に、以下の仕入税額はその後の改革で控除範囲が広まり、IT化の完全でない分野です。多くの部分はいわば財務担当者が積極的に対応しないと控除範囲とならない部分ですので、貴社の実務フロー上既にルーティン化されているのか、どのように仕入税額を収集・計算する体制となっているのかを確認するのが良いでしょう。

 

有料道路通行費の増値税控除関連問題の通知

財税[2016]86

一、増値税一般納税人が支払う道路、橋、ゲート通行費で取得した通行費発票は、以下の公式で計算する金額を控除可能仕入増値税とする。

高速道路通行費で控除可能仕入税額:高速道路通行発票上明記された金額÷(1+3%)×3%

一級道路、二級道路、橋、ゲート通行費で控除可能の仕入税額:通行費発票上明記された金額÷(1+5%)×5%

 

増値税改革深化に関する関連政策の公告 

財政部税務総局税関総署公告201939

六、納税者が購買する国内旅客運輸サービスは、その仕入税額を売上税額から控除できる。

(一)納税者が消費する国内旅客運輸サービスで増値税専用発票を未取得のもの

  • 増値税電子普通発票を取得し、発票上税額が明記されているもの
  • 旅客の身分情報が明記された航空運輸電子客表行程票を取得し、以下の公式で計算する仕入増値税:

(チケット価格+燃油サーチャージ)÷(1+9%)×9%

  • 旅客の身分情報が明記された鉄道チケットで、以下の公式で計算する仕入増値税:

チケット価格÷(1+9%)×9%

  • 旅客の身分情報が明記された公道、水路等他のチケットで、以下の公式で計算する仕入増値税:

チケット価格÷(1+3%)×3%

 

なお、この飛行機行程票や鉄道チケットで仕入税額が控除できるのは、会社と合法的な雇用関係が成立している従業員に限ります。(深化増値税改革即問即答之二 三)

 

 

【仕入税額の認証と計算】

 

(1)IT化される認証実務

稀に台湾地域の実務のように公認会計士が仕入税額の認証を行うのでしょうかと誤解される方もいらっしゃるのですが、現在中国大陸の増値税専用発票の認証はIT化が相当進んでおります。

現在では全一般納税人の認証方法は二択となっています。(国家税務総局公告2019年8号)

  • 増値税発票選択確認プラットフォームで選択確認
  • 紙発票をスキャン認証

 

認証は納付増値税額を直接減額する効果を持つために、手許に届いて帳簿上費用計上を行う前に認証だけしてしまう実務も見られます。その結果通常借方残高となる「未認証仕入増値税額」(その他流動資産)が貸方残高になるような事象も見られますが、費用計上の観点、並びに出納処理上も適切とは言いにくいでしょう。

 

(2)IT化の枠外の支出の認証

上述財税[2016]86号に基づく有料道路通行費の認証は一部で以前困難がありましたが、2019年には有料道路通行費電子普通発票は増値税発票選択確認プラットフォームで選択可能になっています。また深圳市のようにタクシー代でも電子発票を発行できるような地域もあります。

 

増値税発票選択確認プラットフォームで表示されない「納税者が購買する国内旅客運輸サービス」(財政部税務総局税関総署公告2019年39号)については、申告担当者が計算または金額を把握できる環境をフローとして整備する必要があります。

かつ、専用発票の認証と異なり手計算で導出することになるため、税務調査に備えどのようにその金額を算出したかの紙証憑を帳簿に残しておくのが適切と言えるでしょう。

 

仕入税額の範囲・認証・計算実務は今後も機動的に変化していく可能性が高く、適時アップデートが必要となるでしょう。

また、積極的に最新の規定になじんでいこうとしない財務部員の場合には、控除範囲が増えたことを知らず潜在的に会社に損失を与えている場合もあります。2019年39号規定第6項のような仕入税額範囲拡大のケースでは、積極的に会社として対応を行う場合のみ減税のメリットが取れるため、行わなくても税務リスクがあるわけではありません。会計上も誤りではないため会計監査などでもスポットが当たりにくく、担当者が交代するまで表に出ないこともしばしば発生するでしょう。

 

 

本稿の執筆時点は次の通りです:2019810

 

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