「駐在員が一時帰国している期間に生ずる 日本での所得税課税とグロスアップ」

注:本稿は2020年5月のみずほフィナンシャルグループの Mizuho Global InfoStation- 中国会計・税務の現場から に掲載されました弊社提供記事です。貼付の過程で図表の一部が壊れておりますことをご了承ください。

【はじめに】

 

今号では新型コロナウィルス対策期間中発生しうるケースとして、駐在員が一時帰国している際に日本の親会社から駐在員本人に給与等を支給されている場合に発生する、日本での所得税課税の論点について説明します。

 

2020年中国の旧正月期間中、新型コロナウィルスがまず中国で猛威を振るいました。そのため各国政府から中国への渡航を控えるような勧告が相次ぎ、日本に帰国していた駐在員に日本本社が中国への渡航を控える指示を出す会社も多くあったと思います。そのうちに新型コロナウィルスは世界規模での蔓延となり、国・地域の移動が著しく困難になりました。

結果として日本本社での職位・職務はないにもかかわらず、思わず中国に戻れず日本に滞在し続けるような駐在員のケースがあるかと思います。そのような際日本本社から駐在員に支給する給与・手当がある場合に、本稿の問題が発生することになります。

 

 

 

 

【解説:日本語】

 

1.日本の税法上の取り扱い

 

(1)非居住者に対する給与の源泉所得課税

一般的には、1年以上の予定で海外拠点に転勤をする場合、その駐在員は日本の所得税法で言う非居住者になります。すべての駐在員が日本税法上の非居住者であるとは限りませんが、以下は駐在員が日本税法上の非居住者であるとして話を進めます。

通常、非居住者となった駐在員はその駐在員が日本本社の役員でない限り、赴任中に日本本社から駐在員に(海外勤務期間に対応する)給与手当の支給を受けた場合でも日本で所得税は課税されません。

 

しかし、海外で勤務している駐在員に対して日本国内において給与手当が支払われ、その計算期間内に日本で勤務した期間が含まれている場合には、その勤務期間に対応する金額に対して20.42%の税率で源泉徴収が必要となります。

 

所得税法161条1項12号イ: 俸給、給料、賃金、歳費、賞与またはこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するもの

所得税法上の「国内源泉所得」に該当する「給与等」とは、支払者や支払場所に関係なく、支払の基因となった勤務の場所によって判定されることになります。

 

よって、今回のように新型コロナウィルス対策のため中国への渡航を控えていて日本で一時帰国、日本で勤務を暫定的に続けているような駐在員で、日本会社から何らかの給与手当の支給がある場合にはこのケースに該当することになると考えられます。

 

 

 

 

(2)租税条約との関係

 日中租税条約において、短期滞在者の免税基準が定められています。

下記の条件すべてを満たす場合は、所在現地国での課税が免除される。(日中租税条約第15条2項)

  • 滞在期間が1年(暦年)を通じて合計183日を越えないこと。
  • 居住者でない雇用者またはこれに代わる者から支払われるものであること。
  • 国内に有する恒久的施設または固定的施設によって負担されるものではないこと。

 

今回のケースの場合、日本本社が駐在員に給与手当を支給する状況であり、②に抵触し租税条約によっても免税は認められません。この点は、今回の一時帰国の有無に関わらず一貫した解釈となります。

 

 

  1. 中国側の税務実務との関係

(1)グロスアップとの関係

駐在員の場合、手取り保証のもとグロスアップ計算を行うことが多いかと思います。

中国では任職、雇用、委任によって中国国内で役務提供を行うことにより取得する所得は支払の場所に関わらず個人所得税法上の中国国内源泉所得であると規定されています。よって、仮に今回日本で発生する所得税の影響を駐在員個人に負担させることを避け、日本支給給与手当支給額をその分増加することになる場合すべてが中国国内源泉所得を構成します。所得税増加後の支給額を記載した給与明細を中国側に通知し、中国でグロスアップ計算を行うのがシンプルかつ中国側日常オペレーションにほぼ影響を与えない考え方になるかと思います。

 

(2)中国税法上の居住者要件との関係

また、このまま病禍の影響が長引き、もしくは国・地域を跨ぐ移動が著しく困難な状況が続く場合には今まで記載してきた話の前提が変わり、駐在員が中国税法上の居住者要件から外れてくる可能性が十分にありえます。日本本社と中国現地の会計事務所(コンサルティング会社)との間で柔軟な連携が必要になる局面であるといえるでしょう。

 

(1)の場合、日本で所得税が課税され、中国でも個人所得税が課税されることになります。二重課税となるため、個人所得税の外国税額控除を行うことが考えられます。

 

 

本稿の執筆時点は次の通りです:2020412

 

本ページは執筆日より前の法令等に基づいて作成されており、直近及びこれ以降の税制改正等が反映されていない場合がありますのでご留意ください。国家税務総局等のURLは執筆日現在で有効なものを記載しています。

また、本ページは概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。法令法規の説明を除き、解説は執筆者個人の判断や解釈を反映するものであり、所属団体としての意見を表明するものではありません。企業の所在地域、種類や規模によっても解釈が異なる可能性があります。個別の実務上の問題については貴社と直接契約するプロフェッショナルにご相談ください。貴社と契約するプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本ページの情報を基に判断し行動されないよう、お願いいたします。

 

本稿の内容は最長で次の時点まで有効である可能性があります:20201231